新しい靴を買うと出かけたくなる
同じように
スパイクタイヤを履かせると雪道を走りたくなる
人間とはそんな単純な生き物である
ロードは簡単に載せられるようになったが、まだMTBは慣れない
グラっとなってヒヤっとする、ハッとして!Goodである
初の冬クライムだが、下界はまだアスファルトが出ている
ガニャガニャガニャガニャ・・・
10m先の歩行者も振り返るスパイクタイヤの走行音
ベルは要らないかもしれない
3合目付近から徐々に冬道になっていく
6合目を過ぎた辺りからは完全な圧雪アイスバーンになっていた
ロードバイクとは違う高めのハンドル、上半身が起きているので呼吸が楽に感じる
極端に軽いギヤまであるので、スピードこそ出ないが確実に脚の負担は少ない
ダンシングをしようと腰を上げてハンドルに加重が移ると、一気にトラクションが抜けてしまう
シッティングでも軽いギヤでグイグイ回そうとすると、同様にタイヤが滑り出す
後輪にしっかり体重を残しつつ、丁寧にペダリングをしないとロスが生じてしまう
普段のライドではなかなか使わない筋肉が徐々に悲鳴を上げる
雪は音を吸い、道路脇の木々が風を遮る
夏に纏わりついてきた虫達は今はいない
スパイクタイヤのピンが「キシ、キシ、キシ、キシ・・・」と雪を噛む音
自分の心臓が脈打つ感覚と弾む息の音しか無い
まるで「この世界に自分ひとりしかいないのではないか?」という不思議な感覚に陥る
この感覚は、きっと冬チャリでしか味わえないだろう
やった事が無いので判らないが、きっと座禅を組んで「心を無にする」感覚に近い
適当な事を言っているとは思うが、本当に「無」を感じたのは確かだ
晴れていて良かった
冬は特に下界とは天候が違う事がよくある
なんせこんなに景色が違うのだ、当然である
凌雲閣でトイレを借りて、いざ下山である
夏場でもダウンヒルはウィンドブレーカーが無いとやや寒い
風対策はしてきた「つもり」だった
完全にナメていた
下り出した瞬間、今までの楽しい気持ちが正に凍り付いた
ロード用ヘルメットは風通し抜群!
汗をたっぷり吸ったパッドは瞬時に凍結し、頭部を急速冷却!
かき氷で頭が痛くなる経験をした事がある人は多いだろう
その痛さが頭部全体に一気に来る感じである
チラチラと降っていた雪が
下りのスピードでは吹雪の如く顔面に刺さる
体感的に-15度以下の吹雪のようだ
冬用のサイクルグローブも汗が急冷されて、中の手の熱を奪い去る
登りでは特に感じなかったが、完全な防風仕様ではない
500mも走らないうちに、ブレーキレバーが握れない程に
ガッチガチに悴んでしまった
ウィンドブレーカーの下に着ていたアンダーウェアも良いチョイスでは無かった
休憩で完全に汗が引いた状態ではなく、風を受けての汗冷えが止まらない
ゾックゾクしてきた
ゴアテックスの靴もこんなに風を通すのぉ~??
足先の感覚も全く無くなってしまった
このままNoブレーキで下り切るか?
恐らく1kmも持たない、路肩に落ちるか、体温が落ち切る
「一旦、温まろう」と折り返して登ってみたものの、
一度冷えた身体は、なかなか熱を取り戻せない
「バイクから降りて歩いて下ろう」
バイクはスパイクがあるが、まさかの靴が滑り盛大にコケる
こりゃ歩く方が危ないぞ・・・
指の感覚は無い、金属製のブレーキレバーからも熱が逃げる
結局、バイクに跨ったまま両足でブレーキをかけながらのダウンヒル
7合目付近まで「ズリ落ちて来る」という方が正しい
完全に半べそ以上、号泣未満
命からがらの帰還である
もう汗か涙か鼻水か、付いた雪が解けたのか、まったく判別できない
アスファルトが見えてきた
気温も0度以上になっている、日差しが身体を温めだしている
徐々に身体の各パーツの感覚は元に戻りつつあった
ある種の「臨死体験」に近い恐怖を感じながら、無事下山したのであった
Yamaichiさんでランチ&戦果報告
「あははは、ホントに冷たくなる所でしたよぉ~」と強がってはみたが
やはり「山は恐ろしい」とヒシヒシと感じていた
ウェア、グローブ、登りのペース、休憩の仕方・・・
反省点は山ほどある
生きて帰って来れたのだから、ギリ正解だったが完全なる赤点だ
次に備えて装備を整えよう
晩酌をしながら、あれやこれやと対策を練る
懲りない男、奥様は呆れている
もう冬チャリなんてしないなんて、言わないよ絶対