新しい朝が来た
希望の朝だ
そんなの嘘だ!
これから目ん玉にストロー刺して中のお掃除するんだぜ?
脂汗が止まらないのは加齢から来るものではない
恐怖!凄まじい恐怖!
ざわ・・・・ざわ・・・・
手術室に向かう、もちろん歩いてである
グリーンマイルを歩いた囚人たちもこんな気持ちだったのか
↑絶対違う
手術室に入り、頭がしっかり固定される特殊な枕のついた台へ
そうだよな、寝返り打ったら終了だもんな・・・
5cmほどの穴の開いた布を顔に被せる
瞼を閉じない様にする治具を取り付け、何度も目薬を点す
実物を見ていないので何とも形容しがたいが
ゆでたまごの薄皮みたいなのを眼球に載せたように思えた
視界は・・・・無いわけではない、光を感じる
手のひらは汗ばむのを通り越し、握ると滴となって落ちる
背中には今までの生活で経験した事の無いほどの悪寒
いよいよ始まるのだ・・・もう身を委ねるしかない
「全集中、虫の息」
もうダメ・・・・気絶しそう・・・
8時と4時の角度から何か入ってきた・・・
え?こんな見えんの?と拍子抜けするほどハッキリ見える
4時側のストローの先端から何か出てきた
どこかで見覚えのある形である
チョキチョキ動くのまでしっかり判る
「見えるぞ!私にも敵が見える!」
ハサミでぴろぴろを眼球の内膜から切り離す作業に入った
不思議な事にこの頃からなんだか楽しくなってきた
内膜から切り離されたぴろぴろがフワァっと眼球内を泳ぎだした
「あ、切り離せた」と思わず呟く
「え?そんなにしっかり見えてます?」とお医者さんの問いかけに
危なくストロー刺したまんま、うなずくところであった
「いえ、視界はあるから見えているとは良く聞くんですが、
自分でも経験ないからどのくらい見えるのかまでは判らなくて、ははは・・・」
たしかに、この世界を見られるのは患者だけである
「ハサミが動いているのもしっかり見えますよ、なんか面白くなってきました」
傍から見たら、世間話できるような状況ではないのは間違いない
いよいよ最後の工程に入る「お掃除」だ
4時側のストローからカニのオブジェは引っ込み、何かジワジワと液体が入ってきているのが判る
対する8時側のストローは眼球内に漂うぴろぴろ、ずっと昔から視界に住み続けていたニトリといもむしを次々に吸い込んでゆく
吸い込まれる度に「おっ♪」と声が漏れる
全てのゴミを見事に吸い出し、手術は無事に完了したのであった
入院中に会社の同僚がお見舞いに来てくれた
頭ぼさぼさでヒゲ伸びまくりで少々困惑したが、嬉しいもんだ
少し天然な所もあるヤツなのだが、ブルーベリーのサプリやおやつを持ってきてくれたのには、全力でツッこむべきであった
すぐに視力が回復する訳ではないと説明を受けていたが、
思っていたより早く(2~3週間)で概ね回復した
何よりも気持ち良いのは、左目に住み着いていたニトリといもむしが居なくなったという事である
冬場に手術できて良かった
自転車乗れないもんな♪
私はまだ気付いていなかった
「自転車はオールシーズンスポーツである」という事実を
to be continued